ゴロゴロ転がり日々行進

気だるい社畜の雑記。

10番目の夢

 

午前5時、訳が分からない夢を見て、のったりと起きる。

終盤には夢と自覚していた。

 

ほとんど覚えてはいないが、私は夢の中で何度も何度も、入れ子構造のように理不尽な夢に振り回されては起きるということを繰り返していたようである。

 

妙に目が慣れない真っ暗な自室の中で、電気のスイッチを探してさまよったり。

全身から力が抜けてカーペットの上にぶっ倒れたり。

真っ暗い中で冷蔵庫を開けたのに中の照明が切れていて、壊れたかなと心配してみたりしていた。

空を飛ぶとかはなく、極めて現実的な光景の延長みたいな夢の繰り返しである。

 

 

一番最後に見たのは、妙に青白い光で照らされた8畳ほどの部屋だった。

机などの家具が置かれ普通に生活感がある白っぽい部屋の中で、ツルツルした四角い天板のテーブルの向こうに、スーツ姿のおばさんが座っている。そこだけ役所のようだ。

おばさんと向かい合う席に私はストンと座って、面談のような形になった。

それで何を話したか忘れたが、最終的にひとつの物体を手渡された。

高さ10センチくらいで底面が正方形、側面が長方形の立方体を持ってきて、4つの側面をアーチ状に削り、角や辺を削ぎ落とした形の物体。よく見ると穴が空いていたり、上面が大きく丸くくぼんでいたりする。

白っぽい半透明で、うっすら自分の手が透けて見えた。油か何かを固めた石鹸のようでもある。

持たされた瞬間、ああ、これは蝋燭だなと理解した。

芯のひとつも入ってはいなかったが、蝋燭だった。

 

貴重品をおばさんに預け、蝋燭ひとつを持ったまま席を立つと、これまたスーツ姿の2人目のおばさんが待っている。

このおばさんは蝋燭の上面のくぼみに、何かしらの液体を注ぐ係らしい。

蝋燭を持った手を差し出す。おばさんがトクトクと、くぼみに透明でわりかし粘度のある液体を注ぎ出す。どうやら見たところ、これは油らしい。

と、おばさんの手が滑った。私の手が傾いていたせいもあって、油がくぼみから零れて私の手を伝い、床にビシャビシャと零れた。とても熱い。めちゃくちゃに熱い。

熱した油だったのか。ずっと触っていたら火傷しそうだとぼんやり思う。なぜか火傷はしなかった。

おばさんは「あらららごめんねごめんね」と言いながら、油を注ぎ直し、そこに火をつけた。

ポッ、と灯った火は仏壇ローソクのそれより小さい。

おばさんから何かしらの説明を受けている間、私は話半分に聞きつつその火を眺めていた。すると、火はフォワッと音を立てて消えてしまった。おばさんが「あららら」と言いながら火をつけ直す。

説明が終わって私は青白い部屋から追い出された。妙に生活感のある部屋を、玄関に向かって抜けていくと、風呂場やキッチンがある。間取りが違うのに、ああ、私のアパートの部屋だ、と思った。

そのまま玄関のドアから出た。

 

外は夜である。これまた暗い。私の部屋は、夢の中だと2階にあるらしい。コンクリートの床に、鉄骨のさびかけた白い手すり。上からは蛍光灯みたいに青く光る電球が部屋と部屋の間のフロアを照らしている。自室の向かいにもう1つドアがあった。

脇を見ると下へ降りるための階段が伸びている。外は冷たくて強い風が吹いていた。部屋と部屋の間のフロアには壁がなく、風が吹きっぱなしだった。

この風が私の蝋燭の炎を2倍ほどに大きくさせた。と思うと、あまりにも風が強いので消えてしまいそうになる。慌てて風から火を守ろうとするが、どこに背を向けても風上がわからない。全方向から風が吹いている。

絶対にこの火は消したらダメだと、そのことばかりに躍起になってしばらく格闘した。

 

しかしそのうち火を守りきれないと悟ると、途方に暮れて手すりから身を乗り出し、外を見やった。

夜の闇の中で、眼前に広がったのは私の実家の窓から見える光景だった。向かいの家がある、原っぱがある、電柱がある、ゴミ捨て場がある。

見覚えのある光景がそこにあったので、ハッとして地面を見下ろすと、傘をさした中学生くらいの私が制服を着て立っていた。

家の前の道路もそのままあった。そしてそこに、紺の制服に身を包んだ真っ黒(に見える)な少女が、白い傘をさして立っている。雨でもないのに。傘で顔は見えない。しかしたしかに私である。中学生くらいの私はこのアパートに入ろうとしているらしい。

すると、道の反対方向から学ランの少年がこちらへ近づいてくるのに気づいた。

咄嗟に何故か、ヤバイ、と思う。あの少年をここに来させてはならない。嫌だ、と感じた。過去の私に助けを求めようと視線を戻すと、もう私はいなかった。

ふと背後を振り返る。自室のドアの前に、いつの間にか、黒い折り畳み傘が開かれた状態で置かれていた。風は止んでいる。彼が取りに来るんだ、と直感する。また恐ろしくなった。

この辺りになると私の中にも「これは夢だな?」という自覚が生まれていた。しかしだからといってこの夢をどうこうしようというわけでもなく、ただ迫り来る少年の足音に慌てふためくばかりである。

そこで、ええいままよ、と手すりから身を投げた。

考えなしに落ちたので頭からの着地になりそうだ。吸い込まれるように落下する。2階なのに妙に長い滞空時間。その末に後頭部と背中から落ちた。無傷。

 

手に持っていた蝋燭はとっくにどこかへ行ってしまった。体を起こす。私が飛び下りた、今までアパートだと思っていた場所は、何故か私の実家に姿を変えていた。

また冷たい風が吹いてくる中で、私は呆然と地面に足を投げ出して座り、実家らしきものの窓を見つめる。窓の中では父と母、叔父と祖母が、まるで大昔の映画のように早回しで動いていた。

私は真っ暗な闇の中から、早回しで動き続ける暖かい光を延々と見つめ続けていた。

 

そこで目が覚めた。