学食でご飯食べようと席をとったら、カップルが近くの席でスマホゲームしてた。
人少ないからいいけどイヤホンつけろイヤホンを。大音量で食堂にSE響かすな。
せっかくの機会なんだからイヤホン半分こすれば良かろう。
最近食生活が不規則だ。
自分で作ろうと思えば作れる。でもその気力がない。まず材料を買いに行く力がない。コンビニでも弁当やカップ麺ばかり買うのでこれはまずいと自分でも思う。
学食で栄養を補いつつ、一日一食とかでどうにか暮らしている。
しかしなんてったってスーパーが遠い。家から歩いて30分かかる。街なかのくせして鬼のように遠い。コンビニは歩いて10分。どう考えても後者に行く。
一人暮らしを始めた時、実家からこちらに自転車を持ってこなかったせいだ。「めっちゃ自転車要るよ!」という誰かからの忠告を聞かずに、荷物だからと置いてきたのだ。
バスはあるが乗るほどの距離でもない。つくづく自転車が欲しいと思い続けて3年目になってしまった。
自転車というと、個人的には真っ先にケガの思い出を想起してしまう。
私は昔から、「『悪い方の』かもしれない運転」をする傾向にあった。さすがに車の免許は慎重に取ったものの、自転車を乗り回していたころのケガは「まだいけるかもしれない、まだ間に合うかもしれない」のパターンによるものばかりである。
例えば8歳くらいのころ。乗り方を教わったばかりで祖母の後ろについて走っていた時、被っていた帽子が後方へ飛ばされてしまった。そこで私は、あろうことかそれを手で掴み取ろうとしたのである。
帽子はすでに宙に浮いている。しかし頭からサッと離れた帽子の感覚に、脳が「取り戻さなきゃ!」と一瞬で判断したらしい。
当然ハンドルからは手が離れる。
結果、なんと奇跡的に帽子を掴み取った。しかし喜びもつかの間、制御を失った前輪は大きく左へ方向転換。私は自転車ごと思いっきりスリップして大泣き、という話である。
すでにバカバカしいにも程があるが、それから数年が経過した中1の秋、私はさらに恐ろしい「かもしれない運転」を行ってしまった。
その日は入っていた部活の行事が市民会館で行われていた。無事に全日程を終え解散となり、自転車で家路についたところ、道中で前輪のタイヤが何かを踏みつけた。
プツ、という音がかすかに聞こえたが、私は首をかしげつついつも通りに走行を続ける。しかしだんだん様子がおかしくなってくる。前輪は妙にガタガタするし、地面からの衝撃も心なしか大きい。
勘の良い人間でなくともすぐに気づくであろう。私の自転車には大きめの画鋲が刺さっていたのである。
平たいタイプではなく、プラスチックのハートのモチーフがついている画鋲だった。そのため前輪は画鋲を踏みしめるたびにガッコンガッコンと揺れ、空気が抜けていくためにチューブの生命すら危うかったのだ。
しかし私は乗り続けた。家までなら持ちこたえるかもしれない、そんな「かもしれない運転」で1キロの道のりを走り抜けた。途中に自転車屋があったが普通に通り過ぎた。バカとしか言えない。言いようが他にない。
ガコガコ縦揺れを繰り返す前輪を必死に動かし、ようやく家が見えてきた。真っ直ぐに走り、曲がって家の前の道路に入れば私の勝利だ――そんな思いでペダルを漕ぎ続けた。何に勝つつもりだったのか、そのヘルメットもぎ取って弱い頭を殴ってやりたい。
そして、家を前にした90度カーブでそれは起こった。
空気が抜け切って遠心力に耐えきれなかった前輪はスリップを起こす。タイヤがガリガリと道路を擦った。軽い坂になっているため勢いがつき、そのまま、ギャン! と悲鳴を上げて自転車が横転した。私ごと。
私は内ももをサドルに強打、膝と腕を擦りむいた。カゴは地面に叩きつけられてひしゃげ、塗装が剥がれて中身の金属が覗いている。すぐに立ち上がったものの痛みで数分ほど悶絶し、我に返り、呆然と惨状を眺めた。
もはやこれは転倒ではない。事故だ。
その後ありのままを両親に報告し、こってり叱られてから自転車は修理に送り出された。画鋲が刺さったまま乗り続けたために中のチューブまでダメになり、前輪は総取り替え。カゴは力技で何とか元に戻してもらったが、今に至るまでハゲた塗装はそのままだし若干歪んでいる。
実家で自転車に乗るたび、その痕跡を見て様々な方面に申し訳なさが込み上げる結果となった。
それからは無茶な乗り方をしなくなり、一度も転んではいないが、自分のことながら慢心が過ぎるのではないかと思わざるを得ない。
そろそろ学食を出ることにした。
歩きとはいえ距離がそうある訳でもないので筋肉は落ちた。昔はもっと健康的な体だった……とため息をつく。今や睡眠・運動・栄養不足の三重苦である。
せめて野菜は大好きなんだからもっと食べたい。久々にトマトときゅうり食べたい。あとで久々にスーパーへ寄ろう。30分歩けば学食の丼のカロリーもいくらか消えるだろうし。ああでもやっぱり自転車欲しい。
トレイを手にひとまず席を立つと、先程のカップルはもう見当たらなかった。